製造業の現場において、特定技能外国人の存在は今や欠かせない「人財」となっています。
その人的需要を反映する如く、2024年4月には製造業分野における特定技能全体での受入人数上限が見直され173,300人に拡充されました。特定技能制度開始時点では49,750人上限だったことを踏まえると、実に4倍近い上限枠の拡充です。
しかし、それらと合わせて制度の運用体制は刻一刻と変化しており、現場の人事担当者の皆様からは戸惑いの声も聞こえてきます。
特に令和6年度から大きく変化し注目されているのが、本格始動した「一般社団法人工業製品製造技能人財機構(JAIM)」にへの強制加入です。今回は、この新しい枠組みの中で、企業がどのように実務を進めていくべきか、現場の視点から考察します。
制度変更に伴う「義務」と「コスト」の考え方
これまで経済産業省が直轄していた「製造業特定技能外国人材受入れ協議・連絡会」の役割がJAIMへと引き継がれました。この組織は、主に以下の2つをその事業目的としています。
- 製造業分野特定技能外国人の適正かつ円滑な受入れの実現に向けた行動規範の策定及び当該規範の適正な運用
- 製造業分野特定技能外国人の技能評価に関する事業
これに伴い、工業製品製造業分野で特定技能人財を受け入れる事業所は、JAIMの賛助会員への入会が必須条件(省令に基づく告示改正)となっています。
企業にとっては、新たな会費負担が発生することになります。「このコストがどのように現場へ還元されるのか」という厳しい視点を持つのは、経営者として当然の感覚と言えるでしょう。現時点では、機構の活動内容がウェビナーや基本的な研修に留まっているとの指摘もあり、費用対効果を実感しにくいという声が伝え聞こえています。
しかし、このコストを単に「制度上やむを得ず支払うだけの会費」と捨て去るには惜しいところです。現状、機構側からの情報発信は決して頻繁とは言えないため、重要な更新を見落とさないためには、事業者の皆様が自ら能動的に情報を取得しに行く「アクセス権」としてこの会費とJAIM窓口を活用する考え方ができるかもしれません。
2号対策を「機構任せ」にできない理由
ここで一つ、現場のシビアな現実に触れなければなりません。新たに始動したJAIMですが、技能評価試験に関わる事業の一翼を担っており、賛助会員からの会費は評価試験の教材拡充等に用いられるという話もありました。
しかしながら今時点において、すでに特定技能外国人を雇用されている事業所様が注目している特定技能2号への移行に向けた具体的な学習支援や試験対策については、まだ「準備段階」と言わざるを得ないのが実情です。
もし貴社に、「この人には長く残ってほしい」と願う優秀な人財がいるのであれば、JAIMの支援体制が成熟するのを待つのは悪手かもしれません。 支援を待っている間に在留期限は刻一刻と迫り、人財のモチベーションが低下してしまうリスクがあるからです。
2号での雇用を継続し、特定技能外国人のより長いキャリアプランを確定させるためには、今この瞬間から、事業所自身が主体となって具体的な「2号評価試験合格へのロードマップ」を描くことが不可欠なのです。
「特定技能2号」へのステップアップ:現実的な「2つの試験」ルートという選択
特定技能人財の長期定着を考える上で、家族の帯同や在留期間の更新制限がなくなる「特定技能2号」への移行は、企業・人財双方にとっての大きな目標です。
前述の通り、今時点では自社主導で進めるべき2号移行ですが、工業製品製造業分野においては「どの試験を受けさせるか」という戦略が合否を大きく左右します。
「技能検定1級」か、それとも「2つの試験」か
2号の技能水準を証明する方法として、大きく分けて以下の2つのルートが現実的です。
- 技能検定1級への合格(これ一つで要件を満たせる)
- 「特定技能2号評価試験」+「ビジネス・キャリア検定試験」の両方に合格
一見すると、1つの合格で済む「技能検定1級」の方が効率的に思えるかもしれません。しかし、現場の視点から申し上げれば、後者の「2つの試験合格ルート」の方が圧倒的に現実的です。
その最大の理由は、試験の難易度と「日本語の壁」にあります。技能検定1級は後者と比べて合格が難しい難関資格であり、出題される専門用語や特有の日本語表現は、外国人財にとって極めて高いハードルとなります。どれほど現場で熟練した技能を持っていても、いざ試験で躓いてしまうケースが少なくありません。
対して、「特定技能2号評価試験」と「ビジネス・キャリア検定試験(3級等)」を組み合わせるルートは、試験こそ2回受ける必要がありますが、それぞれの徐々に教材が流通するようにもなってきており、段階的な対策が立てやすいというメリットがあります。また2つの試験を各個撃破することで人財がモチベーションを失いにくく、着実にステップアップを目指すには、この二段構えのルートが現実的かと考えられます。
現場でできる「備え」
どのルートを選択するにせよ、合格を「本人任せ」にしない環境づくりが不可欠です。
- 戦略的な受験スケジュールの策定: 試験の実施回数は限られています。一度の不合格が大きな機会損失とならないよう、余裕を持った受験計画を会社と共に立てることが、人財の安心感に繋がります。
- 「試験の日本語」への対策: どの試験でも、日常会話とは異なる専門用語が頻出します。過去問にルビを振る、専門用語の解説集を社内で作成するなど、言語面でのフォローが合格への近道です。
「情報の空白」をどう埋めるか
新体制への移行期には、どうしても支援の手が届きにくい「隙間」が生じがちです。機構が提供する研修等は一定の価値がありますが、先述の通りそれだけで2号対策とするには不十分と言わざるを得ません。各社の現場に即した「確実な試験突破」には、さらに踏み込んだ工夫が必要です。
情報のアップデートが緩やかな現状だからこそ、「自ら情報を掴みに行く能動性」が企業の明暗を分けます。私たち登録支援機関としても、機構がカバーしきれない「現場個別の課題解決」や「2号試験合格に向けた具体的な対策」において、より一層の伴走支援が必要であると痛感しています。
変化を乗りこなすために
新しい組織や制度が立ち上がる際、当初の期待と実態に乖離(かいり)が生じることは少なくありません。しかし、大切なのは「手厚いフォローが来るのを待つ」ことではなく、「現状の枠組みを正しく理解し、自社の人財を守るために情報を勝ち取る」という主体的な視点です。
「2つの試験」というルートの選択は、着実な成長を支えるための「戦略」です。会費という投資を無駄にせず、外部の専門家も賢く活用しながら、共にこの変化を乗りこなしていきましょう。
【出典・参考】
