3月末に告知され、業界で驚きと衝撃が駆け抜けているニュースがあります。
それは、「特定技能(外食業分野)」における受入れ上限への到達と、それに伴う在留資格認定証明書(COE)の一時的な交付停止措置です。
出入国在留管理庁からの突然とも言える発表に、「これから採用を本格化させようとしていたのに」「なぜこのタイミングで」と困惑されている方も多いはずです。今回は、この事態をどう解釈し、今後どのようなアクションがありうるか、外国人採用の現場の視点から考えてみましょう。
1. 「突然の停止」の背景にあるもの
今回の交付停止を受け、世間では「保守系世論に押されて政府が外国人の流入を制限し始めたのではないか」という見方をする声も一部で上がっています。しかし、事実は異なります。
特定技能制度には、その創設時から「分野別運用方針」に基づいた受入れ上限人数が設定されていました。2024年には特定技能全体の上限が拡大されたばかりであり、政府の方針としてはむしろ拡大傾向にあります。
実情を申し上げれば、業界関係者の多くも、行政側ですら、外食業がこれほど早いペースで上限に達することを完全には予測できていなかったと言えるでしょう。直前までアラートが出なかったことに対しては、現場から「もう少し入管庁の配慮があっても良かったのではないか」という声が出るのも無理はありません。
2. 2027年まで続く?「忍耐」の期間
過去には工業製品製造業分野では上限が迫った際に迅速な枠の拡大が行われましたが、今回の外食業分野においては、即座の上限拡大は見込めないのではないかという見方が大勢を占めています。
上限拡大が予想される一つの大きな節目となるのは、2027年に予定されている「育成就労制度」の開始です。育成就労は特定技能の前段階としての性質が強く、おそらくこの新制度開始に合わせて受入れ枠の再編と拡大が行われる可能性が高いと考えられます。
それが事実であればつまり、これからの約1年間は、海外からの新規人財を「特定技能」として呼び寄せることが極めて困難な状況が続くことが予想されます。
3. この「逆境」を「成長」へ変える戦略的サイクル
ほぼ1年間の特定技能外国人の新規受入ができないとなると、外食業事業者の方々の出店計画や店舗運営に多大な影響を及ぼすことは想像に難くありません。
さりとて、この「困難の1年間」を単なる停滞期間にしないために、海外からの新規受入れが止まる今こそ、目を向けるべきは「日本国内」です。
しかし、それは強引な引き抜きを意味するものではありません。むしろ、「今いる人財を大切にすること」から始まるポジティブな連鎖を創り出すチャンスなのです。
ステップ1:【起点】キャリアアップ支援と福利厚生の徹底充実
まずは、現在在籍している特定技能人財の「定着支援」を、一段高いフェーズへ引き上げましょう。 特に、「特定技能2号」への試験対策を会社が全面的にバックアップする姿勢は、強力なメッセージとなります。
今、多くの特定技能外国人が抱いている最大の不安。それは「このまま日本で長く働けるのか」というキャリアの行き止まり感です。
受入れ上限に達するほど多くの特定技能外国人が在留している昨今では、すでに特定技能1号の在留期間上限である5年目を目前に控える層も多い状況です。
長期就労を希望する特定技能外国人らにとって「独力で合格できるのか」という不安は尽きません。
当然ながら、社内のキャリアアッププランなども策定しておく必要はあるかと思われますが、試験対策のみならず、合格後の無期限就労や家族帯同への展望を共有することは、特定技能1号外国人にとって魅力的な職場に映ります。
「2号を目指すあなたを独りにしない」というコミットメントは、既存スタッフの定着を誘引するだけでなく、その噂を聞きつけた転職希望者を自然と惹きつける吸引力となります。
ステップ2:【波及】コミュニティを通じた国内採用の難易度低下
ステップ1で「大切にされている」「成長できる」という実感をスタッフが持つと、外国籍の方々のコミュニティとの相乗効果を生みます。彼らのコミュニティは非常に強固で、とりわけ良くも悪くも、SNSを通じた情報の拡散スピードも驚くほど速いものです。
「あの会社は2号試験までサポートしてくれる」「福利厚生が充実している」という口コミがコミュニティに広がれば、広告費をかけずとも、リファラル(紹介)による転職希望者が自然と集まるようになります。 無理な引き抜きではなく、「選ばれる企業」として国内の優秀な人財を呼び込むことができるのです。
現に私たちが見てきた特定技能所属機関の中にも、「2号対策を支援してもらえるから」という理由で人づてに求職者がアプローチしてくる企業があるため、その効果は机上の空論ではありません。
ステップ3:【成果】将来の受入れ再開時における圧倒的アドバンテージ
ステップ1・2で培った「育成と定着の土壌」は、将来の大きな武器となります。
- 枠拡大時の強固な求心力: 今後、受入れ上限が拡大された際、すでに「多くの特定技能外国人が自発的に求職してきた」という評価は、海外の新規人財からも選ばれる最大の理由になります。
- 「育成就労制度」への適応力: 2027年からの新制度では、今以上に「育成」の質が問われます。今からこの土壌を耕しておくことで、制度変更という荒波を乗り越えるノウハウにも繋がり、安定した人財確保に寄与することが期待されます。
4. 、「受入れの時代」から「育成・定着の時代」
今回の停止措置は、特定技能という制度が日本社会に不可欠なものとして浸透し、「単に数を受け入れる」という初期フェーズが終わりを迎えたことを明確に示しています。
これは外食業分野に限ったことではありません。これからさらに特定技能外国人を筆頭とする外国人財の活用によって企業の成長を左右するのは「人財を確保する力」ではなく、「受け入れた人財をいかに育成し、定着させるか」というノウハウの差になるのかもしれません。
制度に振り回されるのではなく、制度の変わり目だからこそ、改めて「人財」を大切にする原点に立ち返る。今いる人財の未来を共に描くことで培われた「育成の土壌」こそが、将来の枠拡大や新制度移行期において、アドバンテージを得るきっかけになると思われます。
