「外国人を雇えば補助金が出る」仕組みとは

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「今なら外国人を雇用するだけで、国から多額の給付金が受け取れます」 「紹介料は助成金で相殺されるので、実質ゼロ円で人財を確保できます」

人手不足が深刻化し、採用コストが高騰する昨今、このような勧誘がSNSやダイレクトメール、そして営業電話を通じて、多くの人事担当者様のもとに届いています。深刻な現場の悩みを抱える企業様にとって、これらは一見「救いの手」のように見えるかもしれません。
外国人労働者に関するネットニュースのコメントにも「外国人を雇うと補助金が出る」という論調が何度も目に入ります。

しかし、数多くの現場に立ち会い、入管当局や労働局の動向を注視してきた実務者の視点から申し上げれば、その「甘い話」の多くは情報の断片を意図的に歪めたものです。今回はこれらの外国人雇用における助成金活用の真実と、コンプライアンスを重視する企業が持つべき正しい視点を解説します。

1. そもそも、その「補助金・助成金」の正体とは?

「外国人を雇えばお金がもらえる」と言われるものの、補助金や給付金であればその具体的な(例えば、出産育児一時金や物価高騰対応支援事業のような)行政事業名を挙げている例をほとんど見たことがありません。
実はそれらの正体は、主に厚生労働省が管轄する「助成金」です。しかし、助成金は「利益(ボーナス)」ではなく、あくまで「適正な環境整備を行ったことに対する事後的なコスト補填」です。特によく引き合いに出される3つの制度の実態を整理しましょう。

① 人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)

多くの広告で「72万円」といったインパクトのある具体的な数字が出るのがこの制度です。

  • 制度の本質: これは「採用したご褒美」ではありません。就業規則の多言語化、通訳の配置、生活オリエンテーションの実施など、「外国人を受け入れるために会社が実際に支出した経費」の一部を、後日領収書等に基づいて精算する仕組みです。
  • 実務上の注意: 申請には事前支出が必要であり、社労士への手数料や社内工数を加味すると、キャッシュフロー上のメリットは極めて限定的です。

② 人材開発支援助成金(人材育成支援コース)

訓練(研修)を支援する制度です。

  • 制度の本質: これは外国人専用ではなく、日本人を含めた全従業員が対象です。専門的な技能習得のための研修費用が助成されますが、そもそも「研修を実施し、その実績を報告する」ことが前提であり、紹介手数料を補填するためのものではありません。

③ キャリアアップ助成金(正社員化コース等)

非正規から正社員への転換を促す制度です。

  • 制度の本質: こちらも外国人専用ではなく、日本人を含めた全ての従業員を対象とします。しかし特定技能等の在留資格は、制度上「日本人と同等以上のフルタイム雇用」が絶対条件です。助成金受給のために無理な契約形態(例:最初はアルバイト扱いで段階的に正社員へ、など)を組めば、入管法と労働法の整合性が取れなくなり、実際は虚偽申請で入管法違反などに問われるリスクと背中合わせです。
  • 実務上の注意: キャリアアップ時には待遇を向上させる必要があり、それに伴って発生する社会保険の事業所負担上昇などを考えると、助成金による会社へのベネフィットは無いと言えるでしょう。

2. なぜ「実質無料」という言葉を信じてはいけないのか

これらの助成金を引き合いにしてコンサルティング会社や人財紹介会社が使う「実質無料」というフレーズ。ここには、人事担当者が決して見落としてはならない「構造的な罠」が隠されています。

罠1:入金のタイムラグと「不支給」の不確実性

助成金の入金は、申請から半年から1年、長い場合はそれ以上先になります。その間に、対象者が自己都合で退職したり、会社側で一人でも解雇者(離職理由コードによる)が出たりすれば、受給要件は即座に消失します。先に支払った紹介料だけが負債として残るリスクがあります。

罠2:労働局による「全社的労務監査」の受入れ

助成金を申請するということは、労働局等に対し「当社の帳簿をすべてチェックしてください」と招待状を送るのと同義です。

  • 1分単位の残業代未払いの有無
  • 36協定の細かな違反や有給休暇の管理ミス
  • 出勤簿と賃金台帳の整合性

これらが一つでも見つかれば、助成金が止まるだけでなく、過去に遡った全社員分の未払い賃金の支払い命ぜられるなど、全社的な労務問題へと発展する可能性があります。
すでに外国人財を雇用している場合、全ての外国人従業員の次回の在留更新が不許可になるばかりか、技能実習・特定技能問わず、あらたな受入れも不許可となることは必至です。

罠3:コンサルタントによる「リスクの説明不足」

「助成金が通る」と豪語した業者が、不支給になった際や労働局の調査が入った際に、貴社と運命を共にしてくれることはまずありません。リスクを負うのは常に事業者側であり、彼らは「契約を成立させる」という目的を果たせば、その後の貴社の存続には関知しないと肝に銘じるべきです。

3. コンプライアンスの不全が招く「経営への報い」

「少しの工夫(改ざん)ならバレないだろう」という判断は、人財を活かすどころか、会社そのものを壊す行為に直結します。

  • 詐欺罪としての立件と社名公表 助成金受給のために出勤簿や賃金台帳を改ざんする行為は、明確な「不正受給」です。発覚すれば詐欺罪に問われる可能性があるほか、厚生労働省のHPに社名が公表され、今後5年間、国からのあらゆる助成金が利用禁止となります。これは企業の社会的信用を根底から揺るがす事態です。
  • 「特定技能」の受入れ停止処分 会社が負担すべき支援費用を人財の給与から天引きする(不当な天引き)行為は、入管法違反です。これは即座に「特定技能の受入れ停止処分(5年間)」に繋がります。今いる人財が帰国を余儀なくされ、新しい採用もできない。人手不足を解消しようとした結果、事業そのものが立ち行かなくなるという本末転倒な結果を招きます。

4. 謳い文句のウラを取る「確認すべき3つのポイント」

もし、助成金をフックにした強引な営業を受けた際は、以下のポイントを冷静に確認してください。これら全ての問いかけに「YES」と即答できる相手ならば、信じる価値もあるかもしれません。

  1. 「不支給になった場合、御社がその全額を補填するという念書をいただけますか?」 (※リスクの所在を明確にさせるための質問です)
  2. 「この申請代行は、提携の社会保険労務士が『実名』で担当しますか?」 (※無資格者による代行は違法であり、その時点で法令遵守意識が欠如しています)
  3. 「労働局の立ち入り調査が入った際、全社的な労務是正コストが発生するリスクについても、書面で説明いただけますか?」

5. 選ぶべき「王道」の視点

とはいえ、外国人雇用には日本人のそれ以上に初期費用がかかるのが現実です。助成金が出るならそれに頼りたいのが人情というものでしょう。ならば助成金とどのように向き合うべきでしょうか。

助成金は「目的」ではなく「副産物」

真っ当な企業は、まず「どうすればこの人財が長く定着し、活躍してくれるか」を考えます。そのための教育研修や環境整備を行い、その結果として「要件を満たしているなら申請しよう」と考えます。助成金をもらうために環境を変えるのではなく、環境を変えた結果として助成金が付いてくる、という順序を間違えません。

見えない「コスト削減」を優先する

助成金の数十万円を追うよりも、離職率をわずかでも下げることの方が、中長期的なコスト削減効果は遥かに大きくなります。上記助成金をご覧になられたなら分かる通り、助成金が紹介会社等への利益になれど会社の利益になることはほぼありません。それならば一人の採用にかかるコスト、教育にかかる時間、そして離職による事務手間と現場の疲弊。これらを防ぐための「誠実な労務管理」こそが、最もリターンの高い投資になりえます。

透明性の高い管理体制の構築

外国人雇用をきっかけに、社内の労務管理を「いつ調査が入っても問題ない」レベルまで引き上げる。これを「負担」ではなく「組織を強くするための機会」と捉える企業は、結果として定着率が向上し、採用力の強化にも反映されてきます。

結びに

すでに外国人財を雇用し活用されている現場の担当者様、そしてここまでお読み頂いた方であれば、世に言われる「外国人を雇ったらもらえる補助金」などというものが安易に存在しないことは、重々ご理解頂けていると思います。外国人雇用は、労働力の補填が主目的であることが多いと思いますが、それを達成するプロセスは貴社の組織文化をアップデートする機会でもあります。助成金という「甘い果実」に目を奪われ、その裏にある毒(リスク)を見落としてしまうことは、経営においてあまりに大きな損失です。

もし「営業マンからもらったこの提案は法的に大丈夫なのか」「助成金と労務管理のバランスをどう取ればいいのか」と迷われることがあれば、まずは客観的な視点を持つ実務者に相談されることをお勧めします。

参考

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